新事業地レウェイ郡で活動を開始

PHJは、ミャンマーに事務所を開設した2014年から、ネピドー特別行政区タッコン郡で母子保健改善活動に取り組んできました。その後、約6年間にわたり継続的に支援を行い、2020年11月、計画された支援事業を完了しました。そして、2020年12月から、新たな事業地であるレウェイ郡で支援活動を開始しました。

レウェイ郡は、これまでの事業地と同じネピドー特別行政区内で、面積は約2,225㎢(東京都より少し大きめの面積)、人口約30万人です。空港やマーケットがあるような市街地と、農村地域が混在し、人口の9割は農村地に住んでいます。

レウェイ郡中心地の様子

母子保健状況も、市街地と農村地では違います。市街地では、医療施設が整備され、医療者が配置されている一方、農村地域では、医療施設へのアクセスが困難な地域が多く、住民による保健サービスの利用が進んでいない状態です。道も舗装されておらず、最寄りの医療施設までバイク(四輪の車では行けないほどの悪路)で2時間以上かかる地域も存在します。

レウェイ郡農村地域の道の様子

こうした状況を改善させるため、まず、地域保健の中心となる助産師の技術の向上から取り組んでいます。

郡保健局とともに、助産師として必要な妊婦健診や出産介助、産後検診に加え、新生児ケアを含む技術のチェックリストを作成し、それに基づいて、郡保健局や各地域保健センタースタッフがスーパーバイザーとなって助産師の技術をモニタリングしていきます。

レウェイ郡内の保健医療スタッフにとっては初めての活動。これまでは郡保健局、地域保健センタースタッフ、サブセンターの助産師との連携を強化する機会が少なく、はじめはスーパーバイザーも助産師も緊張気味でした。
そこで、助産師同士のロールプレイを取り入れたり、スーパーバイザーによる効果的なモニタリング方法について動画を用いて説明したり、工夫しながら実施しています。

ウェカムー地域保健センターでスーパーバイザーたちへモニタリング方法を説明するPHJスタッフ

オーシッライン地域保健センターで分娩介助の技術をモニタリングする様子

スーパーバイザーは、助産師の技術をモニタリングした後、助産師ひとりひとりに結果をフィードバックします。
レウェイ郡内には新卒の助産師が19人配置されており、中には実際の出産介助経験がない助産師もいます。
そうした経験の少ない助産師にとって、助産師学校を卒業後もスーパーバイザーから個別に技術のアドバイスをもらうことで、地域の保健活動の中心的存在として、地域のお母さんと子どもが安心して妊娠、出産、子育てできる技術を磨いています。
【本活動は、小野薬品工業株式会社とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

ペンの寄贈をきっかけにSDGsの啓発活動を

日本生命保険相互会社様からSDGsのペンのご寄付をいただきました。

PHJがカンボジアやミャンマーで取り組む母子保健改善事業は、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3(すべての人に健康と福祉を)にそのまま合致するものです。

また、SDGsの17の目標の中で、ゴール5(ジェンダー平等とすべての女性と女児の能力強化)、ゴール6(安全な水とトイレを世界中に)、ゴール17(パートナーシップで目標を達成しよう)も関連するものです。

コンポンチャム州保健局の母子保健担当スタッフへペンを寄贈し、SDGs賛同の意志を表明していただきました。

ストゥントロン行政区長にもペンを寄贈しました。

SDGsは、先進国だからなどの線引きはなく、世界中が取り組むべき目標。
しかし、カンボジアではSDGsの認知度は低く、一般の人々には概念が浸透していないため、PHJの現地スタッフもSDGsについてはよく知らないというのが実情です。
今回SDGsのペンをいただいたことをきっかけに、事業地内の小学校でSDGsのイベントを開催することとなりました。
小学生に「SDGsって何?」をきちんと伝えられるように、スタッフは業務の合間にSDGsの勉強に励んでいます。

子どもたちにわかりやすく教えるために教材も作りました。

日本の企業から贈られたペンが、カンボジアの小学校でSDGsの啓発につながり、「持続可能な世界の実現を目指す」ために、身近な生活の場から実際の行動を起こすきっかけとなることを期待しています。
現在、カンボジアでは20人以上の集会が禁止されていますが、禁止が解かれ次第、SDGsイベントを実施する予定です。

運営委員会に現地の人々がオンラインで初参加

11月17日にオンラインで開催されたPHJ運営委員会に、カンボジアの事業地の区長や住民が参加しました。

クポッタゴン保健センターに集まった参加者

運営委員会に出席している方へ、現地からメッセージを伝えるためです。

現在事業地内の保健センターではいくつか課題を抱えています。

クポッタゴン保健センター

クボッタゴン保健センターは入口付近の地面が未舗装で、雨季には池のような水たまりができ、乾季には土埃が舞い、保健センター内に入ってきます。
さらにアレアッタノー、ピアムゴッスナー、オームルーの3つの保健センターの産後ケア室は整備されておらず、
産後の母子が48時間滞在することはとても難しい状態です。

保健センターの現状を伝える区長

PHJではこうした保健センターの課題を改善するため、
クラウドファンディングで寄付を集め、舗装工事や備品購入を考えています。

運営委員会では、公開予定のクラウドファンディングへのご協力を促すために、
区長、村長、保健センタースタッフ一同、母子保健ボランティア、保健ボランティアさん、
そしてPHJカンボジア事務所スタッフ一同も参加し、運営委員会に出席されている方々へメッセージをお伝えしました。

カンボジア所長

このようにオンラインで日本の支援者と対面するのは、カンボジアの参加者にとってはほぼ初めて。
おやつを食べながらウキウキして出番を待っていたとのこと。

また現地の人がこのように募金活動に直接かかわることも初の試みです。
支援を受ける側の人々が働きかけたことで寄付が集まれば、自尊心の向上にもつながり、
寄付で購入した物品などもより大切に使うことと思います。

PHJスタッフと現地の方が協働して募金活動を行い、連携をさらに強化する良い機会となりました。

妊婦健診——安全なお産を迎えるために

イエエイ村での巡回妊婦健診の様子

ミャンマーでは、地域の助産師が自ら管轄地域内の各村を巡回し、村の妊婦さんの健診を行います。
2017年にPHJが事業を開始した時点で、ミャンマー保健スポーツ省が当時推奨していた4回以上の健診を受診した妊婦さんの割合は約54%でした。妊婦さんの約半数が十分な健診を受けないまま、出産に臨んでいるということになります。
PHJは、母と子の健康を守り、安全なお産を迎えてもらうため、妊婦健診の受診を支援してきました。

具体的には、助産師の巡回妊婦健診活動を定期化させ、地域への周知徹底をしたり、各村で出産に関わる知識を地域住民や妊婦へ普及させる活動を、村の母子保健推進員や助産師が中心となって行うことを支援してきました。

上の写真はイエエイ村での巡回妊婦健診の様子です。36人の妊婦が参加し、ひとりの助産師が順番に健診を行いました。母子保健推進員が、場所の準備や活動情報の周知、身長・体重測定等をサポートします。

健診等の記録をモニタリングするスーパーバイザー(右)と説明する助産師(左)

さらに、受診した妊婦の情報が正しく記録されているか、助産師のスーパーバイザーが定期的にモニタリングする仕組みづくりを行ってきました。

PHJスタッフが診療や治療に関わるわけではありませんが、このような取り組みを経て、2020年11月時点で妊娠期間中に4回以上健診を受診した妊婦さんの割合は、約73%まで増えました。
健診の場で異常が発見された妊婦さんは、母子保健推進員や村長と協力してすぐに病院へ搬送されるなど、妊娠中の異常の早期発見・早期治療につながっています。さらに、健診や知識普及の教育等で医療者と地域住民との交流が増えたことで、助産師と地域の人々との信頼関係が強まり、地域の人々がより安心して医療機関を受診できるようになってきました。

出産は、女性、家族、そして地域全体にとって、とても大切な出来事です。赤ちゃんと女性が安心して安全に出産し、健康な赤ちゃんを育んでいくことができるよう、医療者と地域が協力して支えていくことのできる仕組みが、事業地では広がっています。
新型コロナウイルスの感染拡大の中でも、母子の健康を守るために、人々が支え合い、助け合うミャンマーの人びとと学び合いながら、
より多くの人の健康が守られる仕組みづくりを今後も支援していきます。

【本事業は、外務省日本NGO連携無償資金とサポーター企業・団体、個人の皆様からのご支援により実施しています。】

アジアの動物カレンダー2016

各月のカレンダーの見本です。クリックすると拡大して表示されます。

1月 2月 3月
4月 5月 6月
7月 8月 9月
10月 11月 12月
表紙

▲表紙

裏表紙

▲裏表紙

裏表紙2

栄養研修の開催

医療人材の栄養に関する知識を高めるため研修を行いました。

保健省スタッフがファシリテーターとして、カンボジアの子どもの栄養状態、栄養不良の定義、SAMの定義・ケアの仕方、子どもの身体測定の仕方、簡易的に栄養失調をみる上腕周囲径(MUAC)を計る方法、地域の栄養状態の調査手法、フォローアップ方法などの講義を行いました。
受講者は保健センタースタッフ(ストゥントロン保健行政区管轄の全12HC)、保健行政区スタッフ、州保健局スタッフ、地方病院スタッフでした。

研修の2日目には、実際に村でMUAC測定したところ、中度急性栄養不良の子どもが多数確認されました。今後は母子保健ボランティアの栄養の啓発活動の研修を行い、住民への栄養に関する知識向上を目指します。

研修の事前テストは8点(平均)と低かったが、事後テストは83点(平均)と知識向上が見られました。

トピック記事一覧

事業完了後も地域での活動継続を目指して

PHJは、地域保健を支える補助助産師と助産師の会議の開催をサポートしています。
今回は、これまでの事業3年間でそれぞれの管轄地域の母子保健指標がどのように変化してきたかを振り返り、事業完了後の活動継続方法について話し合いました。
会議には、助産師や補助助産師の他、タッコン郡保健局スタッフや地域保健センタースタッフも参加し、地域医療を担う医療スタッフたちがそれぞれの立場から意見を交わし、具体的な活動継続計画を話し合いました。

母子保健指標の推移を共有
:ミャウッメイ地域保健センター

さらに、タッコン郡保健局スタッフや地域保健センタースタッフよりCOVID-19関連の正しい情報が伝えられ、手洗い等の感染予防行動の喚起があらためてなされました。
感染予防のための布マスクの使用方法や衛生管理方法も、動画やデモンストレーションを通して指導されました。

布マスクの洗浄方法をデモンストレーションする補助助産師:
ミャウッメイ地域保健センター

これまでの会議の継続が補助助産師と助産師の関係性の強化へつながり、助産師と補助助産師が村における保健活動を協働で実施する体制ができています。


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